アイスクリームと雪景色
「でも、成田さん」

「駄目。今は社員旅行の最中よ」

「はい……」

しゅんとなって、引き下がる。

美帆はほっと息を吐くが、今のは『社員旅行でなければ構わない』という意味に取れるのではと、内心焦った。

この旅行が終わって東京に戻れば普段の生活が始まる。その時、里村に迫られたらどうすればいい? 何も考えず受け入れてしまったことに、今更困惑している。

身体を離しても見つめるのをやめない里村と目が合い、思わず逸らした。

「成田さん」

「駄目」

バッグからファイルを取り出すと、日程表を広げてチェックする。バスは雪のためスピードを控えているが、ほぼ時間通りだ。

美帆は安心するが、胸のどきどきは止まらなかった。

(公私混同はいけない。そう、社員旅行も仕事の内だから。里村くんを教育しなくては、箱崎さんに叱られる。だから、だから……きちんと幹事の仕事をしよう)

ごちゃごちゃの考えを無理やりまとめて、ファイルを閉じた。

再び窓へと視線を向ける。

上谷村温泉まであと3kmという看板が見えてきた。
< 239 / 395 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop