アイスクリームと雪景色
(ああ、やっぱり駄目)

後悔なんて、していない。

キスを許したのは自分の意思であると、美帆は認めた。

絆されたなんて言い訳に過ぎない。美帆はもう、自分の気持ちを知っている。抑えきれない昂ぶりをどうすればいいのか、分からないだけだった。


バスは信号で街道を曲がり、勾配のある道に入る。目的地はすぐそこだ。

スキー場が近いためか、ボードや板を載せた車と何台かすれ違う。平日にもかかわらず、多くのスキー客がいるようだ。

ようこそ上谷村温泉へ――

歓迎のアーチを潜ってしばらく行くと、旅行会社のポスターやパンフレットで見たのと同じ景色が、道の両側に広がる。

昭和の匂いを残す古い温泉地は、当時と変わらぬ佇まいで一行を迎えた。

美帆はふと、父親が撮影した家族旅行の写真を思い出す。あの写真と同じくらい雪が積もっている。温泉街のどこからでも眺められる、特徴的な山の稜線もそのままだ。

家族旅行の記憶は無いに等しいのに、なぜかとても懐かしい。

美帆は不思議な気持ちで景色に見入った。
< 240 / 395 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop