アイスクリームと雪景色
階数表示に目を戻すと、カゴは5階を通り過ぎて上階へと進んだ。下りてくるのを待つ間に男性社員が二人来たので挨拶を交わす。

「成田さん、お疲れ。今日は一人なの?」

彼らは飲料事業部の社員だが、同じフロアの顔見知りなので、里村のことをからかい口調で訊いてくる。

「ええ、まあ……ちょっと」

美帆は曖昧に濁した。

別に、目立つのが嫌で突き放したと、正直に答えても構わないのだ。誰もが納得するだろうから。

だけど、美帆はためらった。


――冷たい女だ


階数表示に集中する。

胸がどきどきしてきた。なぜ今、彼の言葉を思い出すのか。

(だって、仕方ないじゃない。里村くんがそばにいると、ペースが乱れて大変なんだから)

心の中で、独り言いわけする。それに呼応するように、彼の声が聞こえた。


――君はいつだって自分のペースでことを運ぼうとする

――人がよさそうで、実は他者に対して冷たい女だ

――もちろん、僕に対してもね


忘れたくても忘れられない。美帆を苦しめ続ける、彼の言葉たち。
< 25 / 395 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop