アイスクリームと雪景色
最上階からノンストップで下りてきた階数表示が6で止まった瞬間、美帆は総毛立った。

鼓動が速くなり、膝もがたがたと震えだす。

覚悟を決めたつもりなのに、身体は正直だった。

「やっときたか。遅いよなあ、このエレベーター」

「階段よりは早いだろ」

「まあ、そうだけどさ」

カゴが5階に着くと美帆は脇に寄り、ぼやく男性社員らに先を譲った。エレベーターのドアが開いて二人が乗り込んでから、中を見ないようにして後に続く。

エレベーターはこんでいた。乗り合わせたのは秘書課と広報部の社員。美帆は冷静を保つ努力をしながら、皆に背中を向けてパネルを操作する。

背後から会話が聞こえた。その中に、彼の声が混じっている。落ち着いた低いトーンは、美帆が好きだった大人の声。

そして、彼の声に応えるのは、甘くて可愛らしい笑い声。耳を塞ぎたい衝動に駆られるが、ぐっと我慢する。

エレベーターが1階に到着した。

背後の何人かは地下駐車場で降りる。“あの人達”もそのはずだ。

美帆は1階で降りるので、なんとか顔を合わせずに済むと思った。ドアの「開」ボタンを押して皆が降りるのを待ち、最後に会釈してから外に出た。顔を俯かせ、誰とも目を合わせずに。

背中に痛々しいものを見るような視線を感じるが、気にしない。

ドアが閉じる気配に安堵すると、一刻も早くビルを出るため、脇目も振らずに通用口へと進んだ。
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