アイスクリームと雪景色
「教えてくれたっていいじゃないか」

「忘れちまったものは、しょうがない。そもそも、北里乳業の社員になる気のないお前には、関係のない話だ」

またか。と、宏道はげんなりする。

進路に関する、嫌がらせだった。

大叔父は宏道に、将来は北里乳業に就職することを強くすすめている。それなのに、別の道を歩もうとするのが気に入らないのだ。

(俺は、曾祖父が創業者の、既に出来上がってる企業にはまったく興味がない。従兄弟どもを相手に経営者候補のレースに加わるなんてごめんだ。大学卒業後は、一切無関係の分野に職を求めるつもりだ)

そんな宏道の考えを聞き、誰より彼を可愛がっていた大叔父は落胆した。

だから、北里のアイスクリームに関する、大事な話を教えたくないのだろう。

「それとこれとは話が別だろ」

「いんや、同じだ」

大叔父はぷいと横を向く。

ちょっと子どもじみてると宏道は思うが、そんなところは彼にそっくりだった。
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