アイスクリームと雪景色
美帆はハッとして己の姿を見下ろす。浴衣に半纏というくだけた格好に恥じ入るが、会長は構わず美帆に一歩近付いた。

「成田さん。アイスクリーム部門の大いなる躍進を期待していると、第二グループの皆に伝えてくれ。挨拶も無しですまないが、私はこれで失礼するよ」

「承知いたしました!」

格好はどうしようもないが、せめて姿勢だけでもきちんとしよう。背筋を伸ばすと、深々と頭を下げた。

「そして、君には……」

会長は、ふっと頬を緩ませると、美帆に向かってピースサインを突き出した。突然の行為に、どう反応してよいのか分からず、美帆はぽかんとする。

「あ、あの、会長?」

「宏道とのゴールインを期待する。頑張れ!」

外套を翻し、背を向けた。

ピースサインを高く掲げたまま、会長はロビーを横切り、玄関へとまっすぐに歩いて行く。そのかくしゃくとした迷いのない足取りは、美帆に道筋を示すかのようだった。
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