アイスクリームと雪景色
今夜のことだろうか。それとも、今までのあれやこれや?

どちらでもいい。里村が謝ることはないのだ。

里村は照れたように、しきりと前髪をかき上げる。

美帆は、お酒のせいでほんのりと色く頬を緩ませた。後輩らしい態度を見て、少しだけ肩の力を抜く。

「成田さんのこと、最初から知ってたんです」

「うん」

「黙ってたこと、謝りたくて」

宴会でかなり飲んだようだが、顔つきも口調もしっかりしている。里村は今、とても真面目な気持ちで美帆と向き合っているのだ。

「会長とか、コネとか、そんなもの取っ払ってあなたに会いたかった。イチ社会人として始めたかったんです。て言うか、それより何より」

「……?」

長い睫を伏せ、唇を結ぶ。少年のようにはにかんだ仕草に、美帆はどきっとする。

「初めて出会う男と女として、スタートを切りたかった」

男と女――

熱を帯びてきた里村の眼に、美帆は捕まえられる。後輩でも少年でもない、男の眼差しになっていた。
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