アイスクリームと雪景色
「何を言ってるの……それは、こっちの台詞だわ」

坂崎小次郎を、美帆がまだ付き合っている間に奪ったのはルナだ。もっと言えば、寝取った女ではないか。どういうつもりか知らないが、それこそ、あまりにも図々しい。

美帆は湧き上がる感情を抑えきれず、里村の忠告を退けてしまった。子どもっぽい言いがかりだと理性では判断できるが、もう我慢ならない。

「あなたこそ、自己中心的な強欲女じゃない。人の恋人を奪っておいて、それでも気が済まなくて私に因縁をつけている。盗人猛々しいとはこのことだわ!」

ルナの顔が、さっと赤くなった。

でも、美帆は止まらない。里村から贈られたネックレスを、彼女がしっかり握っている。まるで、自分のものであるかのように。

「何が目的か知らないけど、いい加減にして。仕事をサボってこんなところまで追いかけて来るなんて、どうかしてるわ。あなた、それでも社会人なの?」

「うるさい!」

ルナはしゃにむに飛びかかってきた。

彼女の手からネックレスが滑り、雪の上に落ちる。ハッとした美帆は、襟首を掴み揺さぶってくるルナを突き飛ばし、急いでネックレスを拾い上げた。

「何よ、そんなもの。あんただって、いやらしいことやってくれたくせに!」

ルナは立ち上がり、再び突進してくる。体当たりの格好になり、勢いに押された美帆は、崖っぷちに立つ樹木に背中をぶつけた。
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