アイスクリームと雪景色
臆病風に吹かれた美帆は何も言えないまま彼の横に立ち、階数表示の点滅をひたすら睨むしかなかった。

4、3、2……あっという間にエレベーターが降下する。

坂崎は地下駐車場で降りるのだが、そこまで着いていくわけにはいかない。美帆に与えられた時間は僅かだった。

(ああ、やっぱり無理だわ!)

美帆は焦りながらもどうしようも出来ず、1階に到着した瞬間、思わず目をつむった。

「もうすぐ、クリスマスだね」

「え?」

ゆっくりと瞼を開き、顔を上げる。

坂崎と目が合った。

「成田さん、イブの予定は?」

作戦は失敗――だけど、結果は成功。年上の頼れる大人が、不器用な美帆を誘ってくれたのだ。

「イ、イブは特に予定ありません」

美帆はその場で坂崎にクリスマスディナーに誘われ、二つ返事でOKした。出来すぎな展開に、逆に不安を覚えるけれど、みすみすチャンスを逃す手はない。

26歳までに恋人を見つけて30歳までに結婚――

予定どおりにことが運び、明るい未来へと歩み始めたのだ。迷わず進んで行けばいい。計画を実現させてくれる王子様が手を差しのべている。
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