アイスクリームと雪景色
戸惑う美帆に彼が近付き、手渡した。

ビニール製の小袋を受け取ると、指先に硬いものが触れる。

「な……」

衝撃のあまり、取り落とすところだった。

これは、イヤリングの片側。

いつだったか、美帆が坂崎の部屋に泊まった時に失くしたものだ。しかも美帆の誕生日に彼がプレゼントしてくれた、トパーズのイヤリングである。

(いくら探しても見つからなかったのに、どうして今頃……)

「この前、部屋を掃除したら出てきたんだ。もういらないだろうが、一応、君のものだからね」

信じられない――

美帆は手のひらに小さな石を握りしめ、ポケットにねじ込んだ。

こんなものを渡すために、わざわざ私を呼びとめたのか。いくら律儀な坂崎とはいえ、あまりにも無神経だ。

美帆は震えながら、彼の背後で成り行きを見守る女を強烈に意識した。坂崎に無神経なマネをさせたのは、おそらく彼女だ。

部屋を掃除したら出てきたと言うのは、坂崎のせめてもの気遣いである。本当はルナがベッドの隙間にでも見つけたのだろう。

過去の女のどんな小さな痕跡も許さない独占欲と執念にぞっとするが、坂崎にとってはそれこそが「自分を欲してくれる恋人」の証明であり、愛情表現なのだ。
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