アイスクリームと雪景色
「ほっ、本当に大丈夫よ。あなたのおかげで、転ばずに済んだもの」

「でも、捻挫とかしてませんか」

美帆のロングブーツをちらりと見やり、不安そうに訊ねる。彼の真面目な眼差しに、美帆は閃くものがあった。

――そのブーツ、かかとが高くて、ちょっと歩きにくいんじゃないかなーと

今朝、里村が言った言葉。あの時は、単なる天然発言と片付けたのだが……

「まさか、里村くん。私が雪で滑って転ぶのを予測して、待っていたの?」

彼は美帆の肩をそっと解放し、こくりと頷く。

どうしてそこまで?

何を考えているのか、やっぱりわからない。だけどこの子は、ただの困った君ではなく、彼なりの理由があって行動しているようだ。

「俺、あなたが心配で」

美帆は、自分を一心に見つめる、きらきらした瞳に吸い込まれる。それと同時に、坂崎とルナに対する惨めさが薄れていくのを感じた。

「里村くん」

「はいっ」

「お礼がしたいの。ご馳走させてくれる?」

「えっ?」

きょとんとする顔が可笑しい。

美帆は里村のコートに積もった雪をはらうと、折り畳み傘をバッグから取り出して彼に差しかけた。

「成田先輩?」

「遠慮しないで。助けてくれたお礼よ」

里村は戸惑いつつも、興奮気味に喜んでいる。

「さ、さっすが先輩、用意がいいですね。あっ、俺が持ちますから」

傘の柄を取ると、遠慮がちに美帆に寄り添った。自分ははみ出しても構わない様子に、美帆は目を細める。
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