アイスクリームと雪景色
「ありがとう、里村くん」

「いえっ、こんなことは男のジョーシキですからッ」

美帆は、初めて優しい気持ちになり、里村を見上げた。

なぜこんな気持ちになるのだろう。

里村が差しかける傘に守られ、雪の歩道を歩きながら美帆は考える。

こちらのペースを乱すばかりの、困った後輩。そんな彼に対して、いくら助けてもらったとはいえ、こんなに優しくなれるなんて。

――君はいつだって自分のペースでことを運ぼうとする
――人が良さそうで、実は他者に対して冷たい女だ

坂崎の指摘を思い出す。

確かに私は、そのとおりの女であると美帆は思う。

相手に対する思いやりに欠けていた。そのことを、今ようやく自覚した気がする。

(裏切られたショックで、考える余裕もなかった。私は、小次郎さんを傷付けてきたのね)

コートのポケットを探ると、ビニールの小袋に触れた。

――君に会ったら渡さなければと、持ち歩いてたんだ

このイヤリングは、ルナの嫌がらせかもしれない。でも、坂崎にとって忘れ物を持ち主に返すのは、嫌味でも何でもない、当たり前の誠意なのだ。

坂崎小次郎はそういう人なのだと美帆は知っている。
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