アイスクリームと雪景色
「さっきからずっと、俺の身体を観察してますよね!」

「なっ……」

隣席のカップルがこちらをチラ見し、何ごとか囁き合うのがわかった。

陽気な音楽が流れる店内だが、里村の地声は大きい。今のセリフが、はっきりと聞こえたのだろう。

「あ、あのね。いつも言ってるけど、もう少し小さな声で」

「ってことは、惚れちゃいました?」

「え……」

美帆はぽかんとして里村を見返す。

惚れちゃいました――

「どうしてそうなるのよっ……」

かろうじて声を抑えた。これは、さっきの『冗談』とまったく同じである。里村には、いついかなる瞬間も気を抜けない。

だが、若さのためだろうか。オヤジ世代の酔っ払いのような、セクハラ的ないやらしさは微塵も感じられない。里村は美帆の焦りに気付かず、キラキラと期待に満ちた目でリアクションを待っている。

それを見て、美帆は考えた。

タイミングもセンスもいまひとつだが、この子なりに私とコミュニケーションをとっているつもりなのだ。

アルコールが入った状態で、まともに怒るのは無粋かもしれない。
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