アイスクリームと雪景色
それならば、ジョークならジョークで返すのが筋だろう。先輩として、ノリのいいところを見せて親睦を図るのも時には必要だ。

酒の席での軽いやり取りは、職場での付き合いに良い影響が出ると、これまでの経験から知っている。伊達に8年間、社会人やってるわけじゃない。

美帆は冷静を装い、年長者らしい余裕の態度で応えてあげた。

「そうね、惚れちゃったわ。里村くんって、頼もしいのね」

「……」

どういうわけか里村は固まり、口をぽかんと開けたまま動かなくなった。

「あの、里村くん?」

彼の目の前で手を振ってみるが、目玉は美帆を凝視して、瞬きもしない。

完全に凍りついている。

(どっ、どういうこと? 私、そんなにショックなこと言った?)

『やっぱり? ですよねー』

といった返しを予測していた美帆は、無反応の後輩に対してフォローも出来ず、途方に暮れた。

(それにしても、惚れちゃったと言われて固まるなんて失礼よ。冗談を振ったのは、あなたでしょうが!)

美帆は段々と腹が立ってきた。一体、この子は何を考えているのだろう。
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