アイスクリームと雪景色
里村の理不尽な態度に美帆は困惑する。結局、どこまでも振り回されてしまう自分に腹が立つ。

「成田先輩」

「……な、何よ」

つっけんどんな言い方をするのは、立場が逆転した構図に対する、先輩としての虚勢だった。

男性に関する自信が地の底まで堕ちている今の美帆には、異性に不自由したことがないであろう里村に、苦言を呈されるのではないかという恐れがあった。

だけど仕方がない。異性関係では里村のほうが間違いなく上手だ。

間近に迫る美しい顔立ちからそれとなく目を逸らし、叱責を覚悟した。逃れようとしても、若い男に力で敵うわけもない。

美帆は睫を伏せ、里村の低い声を耳に受け止める。

「抱かせてください」

「……」

雪がひとひら、頬をかすめた。

「今すぐ、俺のマンションに……」

外国語を聞いたのかと思った。というか、脳が正しく処理できない。

美帆は首を傾げつつ、眼前に迫る若い男を直視した。

里村宏道。23歳。七つ年下の、現在教育中の新入社員。今、彼が放った言葉は日本語であり、確かこんな内容だった。
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