アイスクリームと雪景色
「すみません、俺、つい前のめりになりすぎて。でも」

口ごもり、視線を気まずくさ迷わせる彼を見上げながら、女性に断られる経験など無いのだろうなと美帆は想像する。

入れ食いなんていう言葉は好きではないが、彼なら実現可能だろう。

笑っても怒っても、どんな表情になっても端正な顔立ちというのは魅力を損なわず、女の心を捕らえてしまう。

それはとてもよく理解できるのだ。

里村の大きな黒目はしばらく迷走した後、ふと、斜めの方向で止まった。ちょっと怖いような真顔になり、何かを凝視している。

「里村くん?」

視線の先に振り返ろうとしたが、電車が15分遅れで到着するとアナウンスが聞こえたので、急いでパスケースをバッグから取り出した。

「ひゃっ」

いきなりその手を掴まれ、小さく悲鳴を上げる。掴んだのは里村で、覆い被さるようにして美帆を見下ろしている。

「な、何を……」

「行きませんか、成田さん」

興奮の口調で言うと、美帆を身体ごと後ろに向かせ、背中を押して歩かせる。バルから彼女を連れ出した時のように、強引なやり方だった。
< 99 / 395 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop