【シナリオ版】釣った夫は腐ってました!~鈴ノ木夫妻の新婚事情~
1話 甘い夢の続きは……
○披露宴会場、昼。

大きなガラス窓の奥に広がる見事な日本庭園を背にした高砂席に、新郎新婦が並んでいる。
隣では、新郎上司の面白くもない祝いの挨拶が延々と続けられているが、二人はそんなことはちっとも気にならないといった様子で、幸せそうに微笑みあっている。
日本人としては色素の薄いブラウンの髪と瞳。タキシードがなんの違和感もなく似合ってしまう完璧なルックスの新郎に対して、新婦の方は地味……いや、おとなしめだ。
招待客はそんな二人を見ながら、ヒソヒソと話をしている。

新婦友人の女1
「華って私たちの中ではダントツで恋愛運悪かったのに、こんな一発逆転あり!?」
新婦友人の女2
「人生の運をここで使い果たしたとしか思えないね。この後は難産とか、若くして更年期障害とか、ありとあらゆる不運がやってくるに違いないわ」

新郎友人の男
「腹立つくらいモテまくってたのに、案外普通の子を選んもんだな〜」
新郎友人の女
「ああいうのはブスって言うのよ!なによ、あれ。あんな子なら私のほうがずっといいじゃない」
新郎友人の男
「おいおい、新婦にむかってブスはないだろ」
(……ま、奥さんにするなら顔より性格ってことかね。わからんでもないなぁ)

新郎上司
「では、二人の門出を祝って、かんぱーい」

長い挨拶がようやく終わり、華やかな音楽とともに宴がはじまる。
新郎新婦も互いに見つめあいながら、グラスを鳴らした。

〇マンションのリビングルーム。夜。

光一「お疲れさま。花嫁は色々大変だっただろ。今夜はゆっくり休んでな」
華「ううん。すっごく、すっごく、幸せだった」
光一「そう?なら、よかった」

お風呂あがりの華にホットミルクを差し出しながら、光一は甘い甘い微笑みを浮かべた。
華(あぁ‥‥なんて、幸せなんだろう)
光一は身長180センチでスタイル抜群。さらりと流れる前髪からのぞくアーモンドアイにすっきりとした鼻梁。優しげな口元。
100人中99人は彼をイケメンだと評するだろう。家柄よし(お父様は某自動車メーカーの役員)、学歴よし(K大法学部卒)で、業界一位の花園商事の出世株だ。
明るく爽やかで、気遣いもできる。
女子社員が選ぶ結婚したい男ランキングは入社以来ずっと一位、もはや殿堂入り。

そんな最高の彼、鈴ノ木光一を白川華はついにゲットしたのだ! 花園商事受付嬢として勤務しはじめて四年(厳密には華は花園商事社員ではなくグループ会社の社員。ちなみに、この花園クリエイティブの平均年収は本社社員の半分程度しかない)、その間ずっと憧れ続けた彼の妻という立場をとうとう手に入れたのだ。

華(女としてこれ以上の勝利がある?いや、ない。私は勝ち組の中の勝ち組。人生は薔薇色だ! 今の気分は、たとえるならば、キラキラの電飾を背負って大階段を降りてくるトップスターといったところね)


光一「華?大丈夫? なに、ニヤニヤしてるんだ?」
華「へっ⁉︎」

はっと我に返った華の目の前に、光一の綺麗な顔がある。
華(端正なのに、どこか野生的な色気もあって‥‥はぁ〜、いつ見てもイケメンだ)
今日の披露宴でも友人席からの羨望の眼差しが痛いくらいだった。もちろん、それが快感でもあったことは否定しないけれど。
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