【シナリオ版】釣った夫は腐ってました!~鈴ノ木夫妻の新婚事情~
〇本編から一年前、花園商事オフィス。朝
朝いちで始まる会議の準備のため、光一は始業時間よりずいぶん早い
時間に裏口からオフィスに入った。社員の出社前のこの時間は清掃員がモップ
がけなどをしているので、邪魔にならないよう通路の端を素早く通り過ぎる。
すれ違いざまに掃除のおばちゃんたちの雑談が耳に入った。
清掃員1「あぁ、そこはさっき白川ちゃんが手伝ってくれて終わってるのよ」
清掃員2「あの地味な受付の子?若いのに、いい子よね~」
受付のほうに視線を向ければ、噂通り、受付嬢にしては地味めな女が重そうな鉢植え
を持ち上げて運んでいた。どうやら、床を掃除しやすいように動かしてあげている
ようだ。それも含めて清掃員の仕事だろう、と、光一は冷たい目で彼女を見た。
光一(いい子じゃなくて、都合のいい子ってとこだろうな)
礼を言われて、屈託なく笑っている彼女の姿が妙に印象に残った。
それ以降、みな同じ顔に見えていた受付嬢のなかで、彼女<白川 華>だけは
きちんと認識できるようになった。
光一(あぁ、まただ)
群衆の中にあっても、浮かび上がるように華の姿が目に入るのだ。
だが、光一にとって、それは不快でしかなかった。
彼女を見ていると、無性に苛立たしい気持ちになるからだ。
掃除、資料整理、やっかいな客の対応。新人でもないのに、面倒事はすべて
彼女の仕事だというかのように、あれこれと押し付けられている。