【シナリオ版】釣った夫は腐ってました!~鈴ノ木夫妻の新婚事情~
光一との話し合い。その一点にばかり意識が集中していたため、華は気がつかなかった。
不審な影が後をつけていることに。
光一に『ひとりになるな』と忠告されていたのに、いつもの癖で人気の少ない近道を通ってしまってもいた。

突然、後ろから伸びてきた手に口を塞がれた。
華(えっ……)
横目に見えた犯人の顔に、華は覚えがあった。
華(うそ、あの時の……)
以前、受付にクレームを言ってきた取引先の男、新庄だった。

新庄「なんで、男と同棲なんてしてるんだ!すぐにやめろっ」
華(同棲?なにを言ってるの、この人)
新庄「君はそんな軽い女じゃないはずだ。清楚で、優しくて……なにより
俺を愛しているはずだろう?」
新庄は狂気に満ちた笑顔を浮かべた。
華(……この人、おかしい。怖い、怖いよ)
華は恐怖のあまり意識が遠のきそうになるのを、唇をかみしめて、必死で
こらえた。
新庄「あんな男の家は早く出ていけ。元の君に戻るんだ」
華(あの張り紙もこの人が!光一さんの恋人なんかじゃなかったのか)

新庄「いまなら全て許してあげるから。さぁ、僕とふたりきりで暮らそう」
新庄は陶酔しきったような表情で、華を背中から抱きしめようとする。

この道は人気がないが、すぐ隣は車も人もたくさん行き交う大通りだ。
大声を出せば、誰かが気づいてくれるかも知れない。
そう思うが、声帯がひきつったようになり、うまく声を出すことができない。
声の出し方を忘れてしまったかのようだった。

華(誰か、誰か……光一さん!)







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