お屋敷の雪と奈奈
「そうなんだ〜!
あ!そういえば、雪さん。今日って月夜会ですよね?いつも通り8時ごろ集合ですか?」

「そうだったね。
うん、今日は百合の部屋で待っていたらいいよ」

ぴょこんと奈奈の艶のある二つ結びの髪が跳ねた。

「百合の部屋!めちゃくちゃひさびさだ〜!!睡蓮の部屋が最近多かったから迷いそう〜…」

「奈奈が小学生の時以来だっけ?
百合の部屋は廊下の一番奥だから、間違えないようにね」

「はーい!」





今年で16になった奈奈は、雪の住む屋敷に10年近く通っている。

むかし、小さかった奈奈が森で迷子になり、雪の屋敷へ迷い込んできたことから、ことが始まる。

森奥深くの黒くて大きな立派なお屋敷。
屋敷の荘厳さや近寄りがたさから、訪問する者はなかなか現れないのだが、なぜか奈奈はここへ通い詰めるようになっていた。

お屋敷に惹かれたのか、はたまたお屋敷に住まう雪に惹かれたのか。



そして、今日は月に一度の月夜会。
名の通り、小さな菓子折を食べながら月を雪と奈奈2人で見るだけという他愛もない会ではあったのだが、奈奈は毎月この会を楽しみにしていた。

月夜会という名の下で雪と会える口実は、幼さが抜けつつある奈々にとっては貴重な時間であり、外界で会うことのできないつまりお屋敷でしか会えない雪との寂しさを埋めるようなものでもあった。







「雪さん!そろそろ学校だから行ってくるね!」
奈奈は立ち上がって、置いていたカバンを取り土を払う。

奈奈はそそくさと花が咲く脇道を抜け、庭園から一歩出た。
庭園の方を振り返ってみた。



「奈々。気をつけて行ってらっしゃい」

ふわりと微笑む雪の姿は眩く、奈々の心を暖かくさせのだった。


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