彼女を10日でオトします
保健室の扉に手をかける戸部たすくの後ろで、私は、小さく息をのむ。
「貴史ちゃーん、さっきぶりぃ!」
ガラっと勢いよく開け放たれた扉。
温まった空気と程よく香ばしいコーヒーの香りが強張る私の頬を優しくなでる。
目の前に立つ戸部たすくの横に、ちょっとした遠近法によって白衣を纏った貴兄の姿が小さく見えた。
デスクに座って、右手にパソコンのマウス、左手にマグカップという格好で固まっている。
お弁当が入ったバックを握る両手に力がこもる。
「まぁた、お前か、たすく。
お前は、一日何回くれば――響ちゃん!」
私と目が合った瞬間笑顔になる貴兄。大好きな笑顔。
その、ふわりとした笑顔に私も笑顔になる。
「響ちゃん、寒いだろ? 早く中に入っておいで」
貴兄の低い声が、ゆっくりと脳に浸透していく。
「あーらら」
戸部たすくの声。私は、はっとした。
保健室の中を見渡すと、戸部たすくは冷蔵庫をあけているところだった。
「ふうん、ホントに“そう”だったんだぁ」
戸部たすくは、冷蔵庫にむかってそう言うと、私の方を見て真顔で目を細めた。
“そう”ってまさか……。
「キョンって、まじでわかりやすいね」
その声は、いつものおどけた調子では無かった。
背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
私の気持ち……ばれた?