彼女を10日でオトします
「た……すくさん……?」

 親指と人差し指に挟まれたスプーンを無表情に見つめていた戸部たすく。
 私の声に反応して、その瞳を丁寧に動かした。

 目が合った。そして、ゆっくりと口角が上がる。

 やっぱり! 私が貴兄を好きだってばれた――!?

 次の瞬間、にぱっと、いつもの笑顔に戻りった。

「ヒーデちゃん、好きな人がいなきゃ、この俺のこと嫌いって言うはずないでしょお? ねぇ、貴史ちゃん」

 戸部たすくは、後ろを向いて、デスクで(たぶん)愛妻弁当を頬張る貴兄に笑顔を向ける。

「なんで、俺にフるんだよ」

 貴兄の声を背中に受けて、心臓がどくんどくんと暴れだした。

 貴兄に知られたくないという気持ちと、戸部たすくにバレてしまったかもしれないという恐怖。
 体が凍り付いてしまって動けない。

「いやあ、若者たちの会話に入ってこれない、おんとし27歳の貴史ちゃんが、なんだか可哀相でぇ」

「余計なお世話だ」

「それに――」

 声のトーンがぐっと落ちる。

「貴史ちゃんなら、キョンのこと、何でも知ってそうだし?」

 その横顔は、依然、笑顔のままで。でも、それが、余計に怖かった。
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