彼女を10日でオトします
 振り向いた戸部たすくは、目を細めて私を見据える。
 鋭い視線。鷹は、きっとこんな目で獲物に狙いを定めるんだ。

 そのまま私を見つめながら、舌先をちろっと出して下唇を軽く舐める。薄く笑みをたたえて。
 妖艶。これ以上の表現が見つからない。

「キョンの初ちゅーもーらい」

 は?

 なに? その為に、貴兄に、コイツ……。

 パタ、パタ、パタ。戸部たすくの靴底が等間隔に音を立てる。
 その音が響くほど、保健室は静まり返っていた。

「たすく、お前……マジでキョンちゃんのこと……」

 後ろから、ヒデさんの声。

 こちらに歩いてくる戸部たすくは、にっこり微笑んだ。

 私の目の前で足を止める。そして、私の頭をなでおろす。

「うん、マジみたい。良かったね、キョン。
男にちゅーしちゃうくらい、俺、マジみたいだよ」

 い、意味がわからん!! 何が良かったのか、何がまじなのか!?

「キョン、ちょっと二人っきりでお話しようか。
邪魔者は――」

 上半身だけ後ろを見て、固まったままの貴兄を一瞥する。

「放心中だし、ね?」

と、私の腕を掴んだ。

 私に向けられた極上の微笑みは、悪魔のモノとしか思えなかった。

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