彼女を10日でオトします
「なんのつもりもないよ。ただの親切」

 親切ですって?

「人をバカにするのも大概にしなさいよ!」

 反射的に振り切った私の手を、頬寸前で戸部たすくは掴んだ。

「俺はバカになんかしてない。だから殴られる理由はないね。
ねえ、キョン。キョンは平気なの?」

 戸部たすくは、時々、こういう目をする。初めて会った時もそうだった。

 硝子のような素直な瞳を曇らせて、質問の答えなんか“見透かしてるよ”って目。

 私自身に自身の気持ちを解らせるように仕向ける。

 ……掴まれた手首が痛い。

「タチ悪いのよ、たすくさんは。
平気なわけないじゃない」

「うん」

「ずっと、ずっと好きだったのよ」

「うん」

「何度も気持ちを忘れようとしたのよ」

「うん」

「でも、忘れるには、好きでいた時間が長あまりにすぎて……」

「うん」

「たすくさんにはわからないわよ……」

「うん。キョン、辛かったね。
キョンは、優しい、いい子だ」

 戸部たすくは、優しく、本当に優しく私の背中に手を回す。

 徐々に引き寄せられるたび、じわりと目頭が熱をもって微かに痛み出した。

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