彼女を10日でオトします
 できない……?

 初めてあった日、キョンが「見えない」と泣いたことを思い出した。
 「見えない」……確か、キョンは、『数字』というワードを口にしていた気がする。

「キョン、それはどうして?」

 テーブルに体重を預けていた身体を直立の姿勢にもどすキョン。
 そして、ちいさく息をもらした。覚悟を決めた、ような雰囲気をまとって。

「やっぱり、あなただけ見えないのよ……」

 ゆっくりと振り向き、俺の頭の上に視線をもっていって、そして肩へ流す。

 「見えない」――これはどういう意味なんだろう。

「私の左目、数字が見えるのよ。それで占いをしているの」

 自分の存在を確かめるような口調だった。
 一言でも言い間違えればどこかに消えてしまいそう、そんな危うさを孕んでいた。

 数字……。

 意味がわからない。数字が見える?

「数字って、1とか、2とかって数字?」

「そうよ。1は『愛』、2は『誕生』。
これは、私の今までの経験からの統計だけれど、私は、暗示、と呼んでいるわ」

 暗示……?

「キョン、ちょっと待って。
今、ひっぱり出してみるから」

 キョンは、悲しそうな、寂しそうな、表情を浮かべた。

 ごめん、キョン。少しだけ……。

 数字――。

 目をつぶって、額に手を当てた。
 頭の中がきゅううっと伸縮する感覚におちいる。
< 120 / 380 >

この作品をシェア

pagetop