彼女を10日でオトします
「それにしても、キョン、見えないのって俺だけ?」

 緑のストライプのダスターを腹の前で畳みながら、頷いた。

「たぶん、そう。
見えなかったのは10年間で初めてよ」

「どうして?」

「私が聞きたいわよ」

「どうしてだろうね」

「わからないわ」

 不機嫌に吐き捨てると、ブラウスの袖をまくり上げて、ダスターを洗う。
 直線的な水流は、ダスターにぶつかってしずくとなり、四方に飛び散っていく。

 伏せた目からは、今にも涙が零れてきそうな雰囲気。

「ねえ、俺の、見てみたい?」

 キョンの手が止まった。

 なんでだろうね。キョンを見てると虐めたくなるんだ。
 脊髄で会話してる感覚。
 脳みそでろ過できない。

「……見たいわ」

「わあ。それって俺の事知りたいってこと?」

「まあ、そうね」

「なあんだ、キョン。
俺のこと好きだったんじゃない」

「なんでそうなる。
私はただ、たすくさんがどんな人間か――」

「キョン」

 俺は、シングルレバーを下ろした。流れ出ていた水が、スパッと切ったように止まる。

「好きの反対は、無関心なんだぜ?
キョンは、俺を好きになる」

 きまったぜい。
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