彼女を10日でオトします
 下唇を噛んでいた歯が緩んだのか、桃色のそれがぷるんと揺れながら姿を現した。

 やっば。俺、目、良すぎ。この場合、動体視力ってことになるのかね。
 ううん。そんなことはどうでもいい。無償に吸い付きたい。

 ここでキスのひとつでもしてあげなきゃ男がすたるってもん?だよねえ、そうだよね。寧ろ、キョンは、俺を待ってるはず!!

 脳内会議にて『GO!!』サインが発表され、一歩足を踏み出したその時、

「たすくさん、自分でやったの?」

ぱっと顔を上げたキョンの口から思いもよらぬ言葉が飛び出した。

「え?」

 言うまでもなく、俺の足は止まった。

 驚いた。キョンちゃん、直球なんだもん。
 
 普通、今、この状況(キョンからすれば、後ろめたさ全開の場面)で訊く?
 訊くにしたって、もうちょっと、こう、歯に衣を着せて、というか、遠回りして訊くもんだよね。

 キョンは、真っ直ぐ、俺の両目に目を据えて、俺の答えを待っている。ともすれば、返答を全身で受け止めて、それを身体に染み込ませようというような覚悟じみた雰囲気さえ感じる。

 前にも感じたことがある。そうだ。キョンがトイレに立て篭もったときだ。

 なんて女なんだろう。

 俺のことなんかどうでもいい、と啖呵をきっておきながら、どうしてこんな質問がぶつけられるんだろう。

 興味本位で訊いてるんじゃないってことぐらいはわかる。キョンの視線を浴びて、真剣な様子がまざまざと受け取れる。

 俺は、どう答えればいいんだろう?

 茶化すことは……簡単だけど、どうしてだろう、したくない。 
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