彼女を10日でオトします
 キョン、口では言わないけれど「なんであなたが知ってるのよ」って目。
 俺を見ながら、隣の棚からカップとソーサーを取り出した。

「昨日、燈子さんが作ってたから覚えてるの。俺、じーっと見てたんだから。
ちなみに、キョン。カプチーノのカップはそっちよ」

「え、そうだったかしら?」

「そうそう。その、縁にツタの模様が入ってるやつね」

「よく覚えてるわね」

 普段は、占い部屋に篭ってるから、慣れてないんだろうね。キョンは、少しぎこちない手つきでカップにコーヒーを注ぎ入れる。

「一回見ればじゅうぶん」

「そういうものかしら」

 その上に泡立つミルクを浮かべたカップをトレイにのせて、いざ、若奥様風のもとへ。これは、俺の役目ね。

 若奥様風は、近づく俺に全く気付かない様子で、ペーパーバックに目を走らせている。

「お待たせしました」

 かちゃ。ソーサーとテーブルが、小さくぶつかる。

 ぱっと顔を上げた奥様風は――。

 あ。

「あら? もしかして、たすく?」

 酒と煙草で程よく焼かれた懐かしい声……。

「お久しぶりです。ナナさん」

 透明な水の上に、墨汁を一滴ぽてんと垂らしたかのように、俺の頭の中にじわあっと闇が広がっていく。
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