彼女を10日でオトします
「嫌だわ、たすく。私、もう、ナナじゃないのよ」

 ナナさんは、上目使いで俺を見ながら、カップをゆっくりと口に運ぶ。

「店、辞めたんですか?」

 カップについた黒みがかった赤い口紅を親指で拭う。

「ええ。たすくがいなくなってから、私、結婚したの。だから、今はもう、サトミよ」

「そうですか。それは、おめでとうございます」

 ナナ改め、サトミさんの色気たっぷりの視線に、俺の心は、階段を降りるように着々と沈んでいく。

 サトミさんは、身を乗り出す。
 腕を組んで、その両肘をテーブルに乗っけた。腕の間から、たわわな胸が押し出される。

「ねえ、たすく。
あなた、まだ“ウリ”やってる?
主婦ってね、退屈なのよ。
だから、ねえ……」

 お得意のおねだりポーズで、猫撫で声。
 あはは。この人、全然変わってないなあ。

「俺、すっぱり、足あらったんですよ。それに、俺、幸せな家庭をぶち壊すようなマネできませんって」

「あらあ、あなたらしくない言葉ね。
前は、全てをぶっ壊したいって顔に書いてあったのに」

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