彼女を10日でオトします
「…………。
とにかく、欲しいんでしたら、他あたってください」
頭がくらくらする。もう限界。
目の前で妖艶に笑う女から離れたかった。
過去は、俺を逃がしてくれない。いくら、反省したって、更正したって、過ちは過ちなのだ。
その現実を突き付けられたようで、とにかく怖かった。
一礼をして、踵を返そうとしたとき、
「そうそう。先日、あなたのお父様に会ったわ。
パーティーでね。私の主人、お仲間なのよ、あなたのお父様と」
サトミさんは、ただの付けたしといった口調で言い放った。
実際、サトミさんにとっては、ただの付けたしだったのかもしれない。
でも、俺にとって父の話題は、悪意の固まりでしかない。
無言で背中を向ける。
キョンと目が合った。俺の背中をずっと見ていたのだろう。
ハの字を描く眉毛と、胸の前できつく握られた拳が目に入ったとき、沈んだ心がそっと持ち上がったような気がした。
そのお礼ってわけじゃないけれど、できるだけの笑顔をキョンに返す。
俺、うまく笑えてるかなあ?