彼女を10日でオトします
 
 そんなぶっ壊れたお姉ちゃんの命に背けなかった私は、日曜日の高円寺駅の噴水前で、冷たい風に晒されているわけだけれど。

 一体、どうして、こんなめにあわなくちゃいけないのよ。

 お姉ちゃんに化粧を施されている時に耳を掠めた天気予報によれば、「本日は今年1番の寒さ」だそう。

 よりによって、お姉ちゃんが引っ張り出したこのワンピース。丈、短すぎない?
 こんなに腿をあらわにしてどうするのよ。制服のスカートだって、あと15センチは長いわ。

『いやぁん、響ちゃん、可愛いわあ! あっ、調度いい頃合いだわ。
行き先は、さっき言った通り。
……わかった?』

 ぞくり。
 背中に悪寒が走ったのは、この寒さのせいだけじゃない。思い出してしまったせい。

 暦もあと1枚になりつつあるこの時期に、今年1番の有無を言わさないお姉ちゃんの『わかった?』を見るハメになるとは。……怖かった。

 あの笑顔が怖いのよ、笑顔が。あんな笑顔でよく、あそこまで迫力のある声が出せるわよね。

 ため息をひとつ。不純物が多い東京の空気は、いとも簡単に白く変わった。

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