彼女を10日でオトします
 突然の衝撃。背中に何か大きな物が当たり、押し出されるような感覚につんのめりそうになった。
 
 一瞬にしてモコモコが私の体に巻き付くと、体は元の体制に戻った。

「待ったあ?」

 モコモコが人間の腕ということ、後ろから抱きすくめられているということ、を理解したのは、飄々とした声に鼓膜を振動させられた直後だった。

 ああ、なんでなの?

「いやん、かっわいいんだからあ。
そんなかわいいカッコしてきてくれるなんて……俺、今日頑張っちゃう」

 おおよそ、おちゃらけて言わなくちゃいけないようなセリフを、ぐっと抑えた声で呟くように囁く。

 ちょっと待ってよ。
 なんなのよ。

 真っ白になりそうな頭に歯止めをかけるべく、奥歯をギリっと食いしばる。

 き、聞き覚えがある声だわ。もう、すでに耳に慣れてしまった声よ。

 泣きたい。

 何が悲しいって、この声の主が“戸部たすく”だって、一瞬でわかってしまった自分が悲しいのよ!


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