彼女を10日でオトします
「あ、俺、朝から浮かれすぎてて、大切な電話すんの忘れてたあ」

 さいですか。そのテンションの高さ……ムカムカしてくる。

「ってことで、ちょっと俺、電話するね」

「どうぞ、御勝手に」

「…………」

 どうしてか、戸部たすくは、携帯電話をにぎりしめたまま、私の顔をじーっと見つめる。……例のウルウルアイで。

「な、なによ」

「俺、電話するよ……?」

「だからなによ。すればいいじゃない」

 ウルウルが一変――男がほっぺを膨らますな!

「えー! 何でよお。『相手は誰?』とか『デート中に電話しないで』って言ってくれないと寂しいじゃない」

「面倒」

「うわっ! 相変わらずはっきり言うねえ。
じゃ、ちょっと待っててね」

 携帯電話を耳に当てながら、数歩私から離れた後、戸部たすくは喋り始めた。

 ちょうど背中を向けてるし、今のうちに帰ってしまおうかしら。
 いや、帰ったところで、駆け付けた戸部たすくに引っ張り出されるのは、目に見えているわ。

 ああっ! イイところにバスが!!
 このまま、あれに乗ってどこか遠くへ……。

 背中を向いている戸部たすくに、ゆっくりと背中を向け、気付かれないように一歩、またいっ――

「あれ? 響子先生?」

 ドッキーン!

< 144 / 380 >

この作品をシェア

pagetop