彼女を10日でオトします
「ああ、やっぱり、響子先生だ」

 バスから降り立った人達を掻き分けて、足早に駆け寄ってくる男。

 赤っぽいオレンジに染めた髪の毛は、よく熟れた柿を連想させる。もしくは人参。

 この人は前によく占いに来てくれていた……ええと、何て名前だったかしら。

 うーん、まあ、その……人参男は、戸部たすくをも凌ぐ嘘くさい笑顔を貼付けて私の腕を掴んだ。
 年は、二十歳ソコソコってとこかしら。

「ドレスじゃなかったから、一瞬わからなかったよ」

 あ、そうか。今日の恰好は、どちらかといえば『占い師、響子先生』寄りだものね。
 こんな恰好で外に出るの初めて。

「でも、響子先生から出てる美人オーラですぐにわかったよ」

 ウソウソ。普段の私――眼鏡にみつあみおさげだったら、すれ違ったって絶対同一人物とわからないでしょうね。

「それにしてもこんなところで会うなんて、運命だと思わない?」

 思わない。だってここ私の最寄り駅だもの、とは言えないので取り敢えず、
「そうかしら」
と、営業スマイルで濁しておくことに。

「響子先生、昼飯食った? 俺、イイトコ知ってんだ。一緒に行かねえ?」

「せっかくですが、私――」

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