彼女を10日でオトします
「何よ」

 やっと搾り出してだした言葉がこれ。私ってつくづく嫌な女だわ。

「ほんとに……? 本当に何も思わない?」

 どうしてこんなにもすがる様な瞳を私に向けるのかしら。
 その儚さを滲ませた瞳に耐えられなくなって、思わず視線をそむける。

「思わないわよ」

 これが精一杯。私は、目線をペイズリー柄のスリッパに落としまま、自分が呼吸しているのかもわからない。舞台袖で出番を待つ、糸が切れた操り人形になったような気分に陥っていた。

 ふわり。甘いような香りが一瞬鼻腔をくすぐり、私の体は包まれた。

 ふとん、のようだと思った。干したてのふとん。
 暖かくて、心地よくて、無意識に瞼を落としてしまう。

「キョン」

 耳元で囁かれる。

 この人は、体温が私よりも高いのだろうか。
 
 そんなことがふと頭にうかぶ。

「キョン……」

 もう一度私の耳元で今度は、呟いた。一度目よりも熱がこもった声で。

 抱きしめられているのに、どうして嫌じゃないのかしら。
 それどころか、私は、ずっとこのままでもいいとさえ感じている。

 私の体を挟む両腕を、たすくさんの背中に回したらどうなるんだろう。
 きつく、きつく引き寄せたら、どうなるんだろう。

 私も、たすくさんも、変わることができるだろうか。

 疑問符だらけの脳みそは、何も答えを出してくれそうもない。

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