彼女を10日でオトします
 床に散らばったガラスと白い陶器の破片。それは、たすくさんが、のどかさんから取り上げた物を床に叩きつけた残骸だった。

「のんちゃん、アバズレの事は、忘れろって言ったよね?」

 バリ、バリとその破片を、スリッパの底で踏みにじる音と、妙に優しいたすくさんの声が不気味に調和する。

 その優しい声の中『アバズレ』の四文字だけが酷く浮いて聞こえた。

「おへんじは?」

「……ごめんなさい」

 これが、兄妹の姿なんだろうか。

 どうみたって、のどかさんは、たすくさんに怯えている。

 どうしてなの?
 これが、たすくさんの……本当の姿なの?

 たすくさんは、その場にしゃがみ込んで、細かく砕けた破片を手の甲で払いのけ、破片の下にあったものを摘み上げた。汚物を摘んでいるみたいに、親指と人差し指の先で。

 たすくさんは、それを顔の横で手首を反すような仕草でひらひらと踊らせる。

 それは、写真だった。

 この距離からじゃよく見えないけれど、大人の男女と小学生くらいの子供が二人。

 かぞく……家族、写真……。

「これは、処分、しちゃおうね?」

 そう言いながら、テーブルの上、大きな灰皿の横に置いてあった、金色のライターを引っつかみ、シンクへ向かった。

「にいちゃんっ!」

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