彼女を10日でオトします
「キョっ……!」

 シンクの前に立ちすくむ、たすくさんを突き飛ばし、綺麗に磨きぬかれたその中に手を突っ込んだ。

「ぐっ……」

 右の手の平に突き上げるような熱さ。熱さが脳細胞を刺激して、鋭い痛みにかわる。

 炎があがる写真に押し付けた手の平は、じんじん、じんじんと脈打つ。

「キョンっ!!」

 たすくさんの声で、はっとなった私は、水使えばよかったな、とぼんやりと思っていた。

 手を持ち上げると写真がくっついてきて、行動に対して当たり前の結果に心臓が飛び出そうになった。

「んぐっ」

 手の平と一部同化してしまった写真を無理矢理剥がす。あまりの激痛に、食いしばった歯の奥から呻きにも似た悲鳴がもれた。

 左上三分の一が焼失した写真を眺める。

 やはり、家族写真だった。

 思わず零れたため息の理由は、灰になった箇所にあった。

 淡い桃色のスーツを着た女性、おそらく母親の顔が焼け落ちていた。

 母親の隣には、父親と思われる男性。母親は小さな女の子の肩に、父親は女の子より幾分背が高い男の子の肩に手を乗せて。

 たすくさんとのどかさんだわ……。

 ……この父親、たすくさんのお父さんよね。さっきのポスターじゃ気がつかなかったけれど、私、どこかでお会いしたこと……。

「キョンさん……」

 のどかさんのか細い声に振り向く。

 どんな表情をしたら良いのかわからなくて、とりあえず精一杯微笑んでみた。
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