彼女を10日でオトします
「キョーン」

 俺は跳び箱の後ろで立ち上がった。胸から上が晒される。
 俺とキョンの距離は跳び箱を挟んで2mほど。対面。

「!!」

 キョンは目を丸くして、体をビクンと派手に弾ませた。

 か、かわいい。
 くしゃみを我慢した甲斐があったね。

「な……っ、た、たすくさん?」

 前のめりになって、バチバチとまばたきしながらずり下がった眼鏡を両手で上げる。

「イエース。アイム、たっしー。
よっ、と」

 俺は、跳び箱に両手をついて、横向きに置いてある跳び箱を飛び越えた。

「ど、どうして、たすくさんが、ここにいるのよ……?」

「んー、キョンに会いにきたの」

「会いにって……、鍵!!
そうよ、鍵かかってたじゃない!!
南京錠をはずしてここに入ったのよ!?」

「だろうねえ。キョンを脅かそうと思って、そうしといたから」

 慌てふためくキョンとに距離を縮めながら、俺は大袈裟に肩をすくめる。
 キョンが立っている斜め後方に手を伸ばして、蛍光灯のスイッチを押した。

 蛍光灯は、点滅を示し、やがて倉庫内をあかるく照らし出す。
 キョンは、眩しさに目を細めながらも、俺から視線を外さない。

「そんなこと出来るわけ――」

 ないでしょ、を遮ってキョンの手を取った。
 包帯に巻かれた手のひら。

「キョン、昨日は、ごめんなさい」

 キョンは、ぐっと、堪えるような顔をして、
「……昨日、何度も聞いたわよ。
たすくさんは悪くない。私が勝手に火傷しただけよ」
と、小さな声で呟いた。

「悪いのは、全部俺だよ。
キョン、痛い?」

 少し間をあけて、「平気」とだけ俺に告げた。

 ああ、嘘ついてる。
 嘘、じゃないか。俺に気を使ってるんだ。

 ぎこちなさが伝わってくる。
 俺の手の上に置かれた、キョンの手から。
< 175 / 380 >

この作品をシェア

pagetop