彼女を10日でオトします
「キョン、どったの? 手、痛い?」

 不安げなその声に、顔を上げたことで自分がアスファルトの上につったったまま、俯いていた事に気がついた。

 お決まりのうるうるアイが私の視界を占領する。

 よくよく考えてみれば、たすくさんも心配症よね。手のことを訊かれたの、今日これで何度目かしら。思い返せば、休み時間の度に尋ねてきた。
 私が勝手に火傷しただけなのに。

「痛くないわ。たすくさん、ちょっと気にしすぎよ。ただ、少し考え事してただけ」

 さらに顔を近づけて、「ほんと?」と念を押して聞いてくるたすくさん。
 小刻みに揺れる大きな瞳。

 なんだか、不意に笑いが込み上げてくる。

「本当よ」

「そっかあ。さっきキョンはあんな真剣な顔して、俺のこと考えてくれたんだ」

 たすくさんは、プレゼントを空けた直後の子供のような笑顔をみせた。

 た、確かに……。たすくさんに関することを考えていたけれど。
 なんでわかるのよ。エ、エスパー?

「あー、キョン、顔まっかっか。図星だったり?」

 私の頬を指差して、至極楽しそうに笑うたすくさん。

 図星。言い訳さえも頭の中に浮かばない自分が腹立たしくて、ただたすくさんを睨みあげるしかできない。

「やん。そんな目ぇされると、よけい美味しそうにみえちゃう。
俺、冗談で言ったのに、本当に俺のこと考えてたんだあ。
……キョンのえっち」

「うるさい!!」

 耳元で囁くたすくさんを一喝しながら突き飛ばして、私は渾身の速さで歩き出した。

 

 
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