彼女を10日でオトします

 『メロディ』の看板に灯りが灯っていたことで、日が暮れかけていることに気がついた。日に日に昼間が短くなる。
 
 純情商店街を吹き抜ける、冷たく乾いた風が私を感傷的にするのだろうか。

 いつの間にか私に追いついたたすくさんは、急に無口になった私の気持ちを悟ったか、口を開く。

「冬ってさ、ひとりでいたくない季節だよね。
景色も色が少なくて寂しいからかな?
ひとりでいると心まで凍っちゃいそうで怖い」

 『メロディ』の扉の前に立つたすくさんは、扉に手をかけたまま焦点の合わない目をガラスに向けていた。

 ガラスに映る自分の顔をなんとなしに眺めている、といったかんじだと思う。

 無表情に目を細めたその横顔からは、感情が読み取れない。

「だから、去年の冬は、あんまりアパートに帰らなかったんだよねえ。
ほとんど、ホテル。
あ、でも、安心して。今年はキョンだけを考えながら一人で耐えるから」

 瞬時に、朗らかな笑顔を作って私に投げかけると「ちゃぶい、ちゃぶい」と言いながら、扉のベルを鳴らしながら『メロディ』の中に入っていった。

 わかりやすい作り笑顔ですこと。

 嘘くさい笑顔に腹が立たなくなってきている自分に驚きながら、私も、たすくさんの背中を追って、暖かい店内に足を進めた。
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