彼女を10日でオトします
「ねえ、たすくさん。
不幸って、どんなときに感じると思う……?」

 思ったことが、すっと口に出ていた。

 たすくさんは、視線を天井に移し、「うーん」と唸る。

「信頼していた人に……裏切られたとき、かな。
ついでに、人を信じられなくなる、というオプションもついてくるし」

 そう、か。
 一瞬、たすくさんの過去をみた気がした。
 そういうこともあるのね。
 数字が見えないと、信頼してもいい人を選べないものね。

「私はね、幸せな時に不幸を感じると思うの。
なんて説明したらいいのかしら。
幸せだからこそ、何かあったときに不幸だと悲観する」

「ふむ」

「初めてね、数字を見たのは、お父さんが死んだ日の朝。いってらっしゃいの後、遠ざかるお父さんの肩に『11』を見た。
その時は『11』が何を暗示しているのかわからなかったけれど」

「罪悪感と……償いってとこか。占いをしている理由は」

 たすくさんは、ぼそっと呟いた。

「そう。その日を境に私の視界は数字で埋め尽くされた。意味もわからず、ただ、気が狂いそうだった」

 今、思い出しても怖い。
 お父さんがこの世からいなくなったことで、おかしくなっちゃったんだと思ってた。

「転機はね、テレビの中の俳優。その人の肩に『11』が出ていたの。
お父さんと同じ数字だったから、その日一日頭にこびりついていたわ」

 私は、目を閉じて、小さく息を吸い込んだ。

「夕方のニュースで知った。その俳優の訃報。
その時、数字の意味を理解した。でも、もう遅かった。
私、知ってたのよ。知らないうちにお父さんの死を知ってた……」

 『11』は出てたんだもの。
 『11』の意味を理解できなかっただけで……。

「もっと早く『11』の意味を理解していれば、お父さんは……」
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