彼女を10日でオトします
「勢いで在原さんまで、連れてきちゃってごめんね」

 静まる廊下に、高木君の声と、二人分の足音が反響する。

 ごめんね、と言われても。今更授業にもどるわけにもいかないので「別にいいわよ」と返した。

 たすくさんも、よく授業さぼっているみたいだし、男の子って授業をさぼるものなのかしら。……たすくさんの場合は、授業に出ている方が少ないような雰囲気があるけれど。

「在原さんって、戸部と付き合ってんの?」

 一歩先に階段に差し掛かった、高木君が振り向きざまに、思いがけないことを尋ねてきた。

 とすん、と高木君の片足が一段落ち、傾斜がかった目線が水平になる。

「つつ付き合ってないわよ」

 質問される直前まで、たすくさんのことを考えていたせいか、思い切りどもった返答になってしまった。

「ふーん。仲いいから、付き合ってんのかと思ってた。
おせっかいだと思うけど――」

 高木君は、そこで言葉を区切って、前に向き直って階段を下りる。

「あいつにあんまり関わらないほうがいいと思うよ。
戸部ってさ、中学のころからいい噂聞かないからさ」

 悪気があって言っているわけではないのだろうけれど……なんか嫌な言い方。

「噂って大抵が、悪いものだと思うわよ。
信憑性は別として」

 なんだろ。イライラする。

「信憑性はある思うよ。
俺の幼馴染が、戸部と同中だから」

 階段を降りきった高木君は、教室の扉に手をかけた。

「どうせ女がらみの噂でしょう?」

「あー、それもあるけどね。
それよりも、裏の……」

 教室の扉を開けた途端、高木君は言葉を止めた。
 というより、動き自体が止まってしまった。
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