彼女を10日でオトします
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 ああ、失敗した。いつもなら、お昼食べて教室に戻るのに、貴兄(たかにい)の顔見てから戻ろうと思ったら、完全に寝過ごしちゃったわ。

 ひとつベッドを隔てたカーテンの向こうから、完全に怪しい男女の声が聞こえる。それで声を殺しているつもり? 丸聞こえよ、丸聞こえ!

 出るに出られない……。貴兄、早く戻ってきてぇ。

 しっかりと確認してから、そういう行為に移ってほしい。……その前に、学校でこんなことしないでよ。こういう事は、ホテルか、自分達の家でやりなさいよね。

 欲しいんだったらもっと舌使え、って……保健室で何させてるのよ!!

 頭、おかしくなりそう。すっかり激しくなってしまった女の声から逃げるように、かけ布団をすっぽり頭から被った。

 まだ聞こえる……。布団の中、人差し指を耳の中に突っ込んでじっ我慢の子。

 しばらくすると、ガラガラと扉が開く音がうっすらと聞こえてきた。やっと帰った?

 布団から頭を出して、カーテンに手をかけようとしたそのとき、

「はあ、すっきりしたあ。まったく、さよちゃんは我慢できないんだから困っちゃう」

 例のベッドから、気の抜けた男の声が聞こえた。口調が全然違う。さっきの男と同一人物!?
 困ったのは、私の方よ! 喉元まで出かかった叫びを必死で押し戻す。

 うっかり出るところだったわよ。
 ……まだいたのね。早く帰りなさいよ。

 再びガラガラ。扉が開く音。今度こそ貴兄?

 すると、一人で喋り出した。変態? もしくは電話しているのかしら? 間延びした独特の口調。

 大きな声の独り言(電話?)がようやく終わった頃、しゃっとカーテンが開く音が聞こえた。

 ……貴兄か思ったら違った。変態男の友達みたい。

 溜め息をひとつ。私は、音を立てないように寝返りをうった。

 煩い。聞きたくなくても、話し声が耳に入ってくる。これじゃまるで、私が盗み聞きしているみたいじゃない……。

 彼女が98人!? と、とんでもない男……。絶対に関わりたくない男№1ね。

「あのねえ、君たち、ココどこかわかってる?」

 貴兄の声! やっと戻ってきてくれた! 早く追い返して!





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