彼女を10日でオトします
 固まってしまった私の身体。
 
 貴兄は、私の眼鏡に手をかける。私は、ぎゅっと目を閉じた。
 眼鏡が外された。裸の瞼が乾いた空気に晒される。

「う……」

「響ちゃん……、大丈夫だよ。ここには、俺しかいない」

 優しい手つきで、左目にかかった長い前髪を私の左耳にかける。

「目を開けてごらん」

 貴兄……。

 私は、ゆっくりと目を開く。

 瞬間、私の目の前は、数字で埋め尽くされた。
 ガラスを隔てない世界は、数字で構成されていて。

 23。

 貴兄の頭の上にはっきりと見える数字。

「ねえ、響ちゃん。響ちゃんは、あの時のままだ。何も変らない」

 貴兄の瞳に私の本物の瞳と、ニセモノの瞳が映る。

 23。

「響ちゃんの瞳には、なんの数字が見える?」

 そんなこと聞かないでよ……。

「ねえ、響ちゃん」

 貴兄の声は、私の胸を締め付ける。

「にじゅう、さん……」

 今にも泣き出しそうな私をよそに、貴兄は、ぱあっと笑顔になった。

「だろう? 俺の気持ちも変らない」

 23……。大好きな“妹”の暗示。

 貴兄は、眼鏡を私の顔に戻すとニッコリと笑って、ベッドから腰を上げた。

 ねえ、貴兄。私の気持ちだって変ってないんだよ。お姉ちゃんと結婚した今だって……。

 私の気持ちは……。

 
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