彼女を10日でオトします
沈黙の幕はなかなか上がらないまま、気まずい空気に身を縮めていると、扉のノブを捻る音が部屋に響いた。
待ってました、って雰囲気ではないけれど、勢いよく椅子から立ち上がってしまった。その拍子に座っていた椅子が倒れた。
「戸部のどか、昨日から家の都合で欠席しているそうだ」
椅子を直している私の頭にそんな言葉が落っこちてきた。
欠席……昨日から……。
「のんは知ってたってことか。
だったら当然、たすくの親父も知ってるってことだな」
荒木薫は、天井に向かってそう呟く。
たすくさんだけ知らなかったってこと?
「どうして、たすくさんだけ知らなかったのかしら」
「……んなこたあ、たすくにだけ言わなかった、ってだけだろ」
当たり前のように言うけれど、のどかさんが知っていて、長男のたすくさんに知らせないって、ちょっとおかしくない?
家族、でしょ?
そう思った途端、随分良くなった手のひらが疼いた。指を開いて、やけどの痕を眺める。
そして、写真が脳裏に浮かんだ。
たすくさんが燃やした家族写真。
のどかさんの手を取っている幼いたすくさん。
お母さんと思われる、顔だけ焼け落ちた女の人の隣で穏やかな顔をしたお父さん。
そういえば、あの時、たすくさんのお父さんを見て、どこかで見たことがあると思ったんだわ。
ポスターでは思わなかった。あの写真を見たときに、ふと、思った。
どうしてかしら。
ああ、思い出せない。
……でも、とても大切なことのような気がする。
待ってました、って雰囲気ではないけれど、勢いよく椅子から立ち上がってしまった。その拍子に座っていた椅子が倒れた。
「戸部のどか、昨日から家の都合で欠席しているそうだ」
椅子を直している私の頭にそんな言葉が落っこちてきた。
欠席……昨日から……。
「のんは知ってたってことか。
だったら当然、たすくの親父も知ってるってことだな」
荒木薫は、天井に向かってそう呟く。
たすくさんだけ知らなかったってこと?
「どうして、たすくさんだけ知らなかったのかしら」
「……んなこたあ、たすくにだけ言わなかった、ってだけだろ」
当たり前のように言うけれど、のどかさんが知っていて、長男のたすくさんに知らせないって、ちょっとおかしくない?
家族、でしょ?
そう思った途端、随分良くなった手のひらが疼いた。指を開いて、やけどの痕を眺める。
そして、写真が脳裏に浮かんだ。
たすくさんが燃やした家族写真。
のどかさんの手を取っている幼いたすくさん。
お母さんと思われる、顔だけ焼け落ちた女の人の隣で穏やかな顔をしたお父さん。
そういえば、あの時、たすくさんのお父さんを見て、どこかで見たことがあると思ったんだわ。
ポスターでは思わなかった。あの写真を見たときに、ふと、思った。
どうしてかしら。
ああ、思い出せない。
……でも、とても大切なことのような気がする。