彼女を10日でオトします
剥がれ落ちるメッキは止められない、9日目
 

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 あの頃は、簡単に、リセットできると思っていた。
 つい最近まで、15歳の一年でリセットできたと思っていた。

 だけど、新しい道ができたわけでもなく、俺に用意された人生のそれは、生れ落ちた瞬間に分け与えられたひとつしかなくて。

 後ろを振り向けば、すぐそこにある。鮮明に蘇ってくる。
 当時の憎しみや、痛みや、悲しみが。
 その感情だけでは拭い去れない愛しさが。


 あれから。
 貴史ちゃんを呼んでから、俺は、一晩中、新宿の街を歩き回った。

 午後には一旦止んだ雨も、日が暮れて街がネオンに包まれると、再び俺の体を打ち始めた。

 傘を買う気には、なれなかった。
 雨に打たれていたいなんて、そんなんじゃなかったけど、おでんの湯気が立ち込めるコンビニに入る気になれなかったんだ。

 雨粒が俺の体に浸透して俺の中にあるもの全部が足の裏からアスファルトに流れ出してしまえたらいいのに、と空を見上げた。

 眠らない街の灯りが雨粒を輝かせていた。

 その光の粒は、俺を避けながら降りしきる。

 やっと一粒が、目の中に落ちてきた。

 東京の雨は、目にしみる。
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