彼女を10日でオトします
 24時間営業のファミレス。
 限られたメニューの中でも一番量が少なそうなものを注文した。

 甲高いお姉ちゃんの声を聞きながら、濡れて冷たくなった制服のズボンが暖かくなっていくのを感じていた。

 制服を温めることに専念した体温は、俺の心を暖めるのを忘れてしまったみたい。
 酸化が始まったコーヒーは、飲み込むたびに酸味が奥歯の奥を刺激して背筋をゾクリとさせる。

 燈子さんご自慢のプレンドが酷く懐かしく思った。

 カウンター、隣に座ったノリさんは、いろいろ話しかけてくれていたけれど、頭の中には、何も入ってこなかった。

 相槌だけで精一杯の俺。

 らしくないのは、俺の頭の中もそうで、引き出しで埋め尽くされていたのが嘘みたいに空っぽだった。

 焼きたてとうたっていたクロワッサンを一口かじる。
 無難な味のそれに、対照的なキョンの料理を思い出した。

 面白い味、だった。
 あんな摩訶不思議で奇天烈な味、キョンしか作れないんだろうねえ。

 今まで食べたどんな料亭の懐石料理よりも俺には価値がある。
 政治家、戸部先生の息子の為じゃなく、俺、戸部たすくの為だけに作ってくれたもの。

 慣れない朝の食事に胃が悲鳴をあげていたけれど、構わず無理矢理押し込む。

 煮詰まったコーヒーにシュガースティックを2本あけた。
 頭が働かないのは、糖分が足りないわけじゃないのはわかっているのに、それでもそのせいにしたかった。

 キョンとかおるんが楽しそうに喋っている姿ばかりを想像してしまっている自分を認めたくなかった。

 気づけば、空っぽだった頭をキョンだけが占領している俺なんて。

 
 

 

< 330 / 380 >

この作品をシェア

pagetop