彼女を10日でオトします
 しばらくして、戻ってきたお姉ちゃんは、一枚の紙を私に差し出した。

 名刺サイズの紙、というより、名刺だった。

『戸部あきら』

 そう書かれた下に、03から始まる番号が二つ、それから手書きで090から始まる電話番号があった。

 頭の奥がぎゅうっとしてくる。

 ノートの隅に書いたパラパラ漫画みたいに、幾多の出来事が頭に次々と浮かぶ。
 そして、ひとつの頭の中に浮かんだものは、家族写真だった。

 たすくさんが燃やしたものと同じ……?

 でも脳裏に描かれたそれは、一部消失したものではなく、完全なものだった。

『この子の事をみてほしいんだ』

 またしても、不意に。
 白髪が混じった髪、それでも若々しい印象の男性の声を思い出した。
 写真の中の男の子を指差した男性は、苦い笑みを浮かべて、それでも切羽詰ったものを感じる大きな瞳をしていた。

 あの人が、戸部……あきら……さん?

 たすくさんのお父さん?

 ということは、私、知らないうちにたすくさんの暗示を見ていたの?

「ねえ、お姉ちゃん」

「なあに? やっと思い出した?」

「ええ。でも、ひとつ気になることがあるの。
私、戸部さんに、なんて答えたのかしら」

 だって、わたし、たすくさんの数字、見えないのよ。

「さあ。お姉ちゃんは、代理の人に後から『お礼に』ってお菓子と名刺を受け取っただけなのよ。
名刺を見てびっくりしたくらいなんだから」

「そう……」

 その時は、たすくさんの数字が見えたのかしら。

「気になるなら、明日にでも電話してみなさい。
代理の人は、困ったときにはいつでもご連絡くださいって言ってたわよ」

 

 
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