彼女を10日でオトします
「それで、俺、余計におかしくなっちゃったんだろうね。
何もかもがどうでもよくなって……」

「それが原因で、自分のお腹、刺したの?」

 キョンの問いに、ドキリ、とした。

「……それ、誰から訊いたの?」

「ヒデさん」

 ヒデか。と、いうことは、琴実はまだあの時の約束を守って……。

「……それで、次に目を覚ましたときは、こっちの病院だった。
その時俺の手を握ってくれたのが、ばあちゃんだったんだ」

 雲が太陽を隠した。
 そのゆるりゆるりと進む雲、太陽の光を受けて淵が光る。

「それから1年、ここで暮らした。
1年かけて、新しい俺を作ったんだ。
キョン、寒くない?」

「平気」

 キョンはそういいながらも、その肩に巻きついた俺の腕をより一層強く抱く。

「……キョンが知ってる俺は、作りもんなんだ」

 息を吸い込んだ。慣れたのか、潮の匂いは感じられない。

「ふーん」

 何て答えが返ってくるか、内心どぎまぎしていたのにも関わらず、テキトウなキョンの反応に肩の力が抜ける。

「ふーんって何よ、ふーんって」

「そんなの、どっちだっていいもの。
たすくさんは、たすくさんでしょ?
どんなたすくさんだって、たすくさんに変わりはないわ」

 ばあちゃんも、そう言った……。
< 353 / 380 >

この作品をシェア

pagetop