彼女を10日でオトします
「……それで、キョンは、親父を追い返したわけ?」

「ううん。戸部さん、すごい粘りでね。
閉店の時間まで、隅の席でコーヒーを啜ってた」

「うっわ。らしくねー。
親父のことだから、ヤクザもん使って脅しかけそうなのに」

「平和じゃないわね……。
――だから、写真の男の子を占うのではなく、戸部さん自身を占うってことで手を打ったの」

 この頑固者のキョンちゃんを折るなんて、親父、たいしたもんだな。なんて、口が裂けてもキョンには言えないけど。

「その時の暗示が、『いざとなったら南の愛するものに頼りなさい』
それと『受けた恩は必ず恩で返しなさい』だったんですって」

「……ですって?」

「恥ずかしながら、私、戸部さんに電話で聞くまですっかり忘れてたのよ」

 キョンちゃんらしいですね、はい。

 ……南の愛するもの。
 南か。地名、人名……方角。

 東京から南っていったら、神奈川か――千葉。
 俺の知ってる限り、神奈川に知り合いはいない。

「ということは、『南の愛するもの』って……ばあちゃん?」

「戸部さんは、そう解釈したようね。
それでこれ……FAXで送ってくれたんだもの」

 キョンは、コートのポケットから紙を取り出した。

 くしゃくしゃに小さく折りたたまれていたものをそっと開いた。

 千葉……保田の地図。

 そこに、サインペンで丸印が二つ。

「ここと……ばあちゃん家だ……」


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